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140字三題噺 -3rd season 続き物まとめ3

仁義なき菓子道の話

1

制服/砂糖菓子/夜
 学校帰り、裏カフェに寄る。自前で直したオンボロ屋台をキッチンカーと言い張るのには閉口だが、これの方が夜に似合う気もする。ワンコインでドリンク(半欠けの湯呑に焙じ茶)をもらい、スイーツ(木枠で仕切られた金平糖やらガムやら煎餅)を選んでよい。もう十円出せばミニ麺にお湯を入れてくれる。

傷跡/砂糖菓子/猫も杓子も
 裏カフェはスイーツもリサイクルで、スーパーの期限切れの琥珀糖が今日のメインだ。ドリンクをソーダにしてもらって琥珀糖を入るだけ入れ、カフェの置かれた公園の街灯に透かす。ごみだらけの公園もその時だけは流石に綺麗に思えるが所詮は錯覚で、私がそう言うと店主は違いないねと隠すそぶりもない。

耳/砂糖菓子/トランス
 この公園を買い取るのが裏カフェ店主の夢だ。落書きだらけのタコ滑り台もヒョウモンダコ色にして、中でカフェをやるそうだ。ケーキとかも出すよと夢見がちだが、もんじゃか何かだろうと睨んでいる。内緒だがその時は学校をやめて屋台で二号店をやる。学校に店の噂だけ流してそっとカラー綿飴を売る。

2

ココア/マシュマロ/満たされる
 カップ一杯のココアにマシュマロを浮かべるか、カップ一杯のマシュマロにココアを注ぐかで意見が割れた。僕はマシュマロが綺麗に見えるから前者、友人はマシュマロがちゃんと溶けるから後者。空家の不要な残家財を燃やす火で湯を沸かしながら、ところで牛乳入り前提かと友人が再び不穏な言葉を発する。

嘘/マシュマロ/映画
 空家は友人の祖父の家だった古民家だ。二十畳敷ほどの大きな広間を友人はミニシアターにしたがっている。床の間側がスクリーンで席はビーズクッション寝転び自由と夢は尽きない。焚火でマシュマロを焼こうとするから、残家財の薬品が付いたらどうすると止めるが、祖父さんの念が着くぜと口が減らない。

月/マシュマロ/甘党
 実のところ古民家は人手に渡ることが決まっており、残家財は今週中に処分せねばならない。夜までかかってあらかたの家具を始末し終え、残りは週末に回した。古着や戸棚を燃やして爆ぜる焚き火をじっと見る友人はさっきからずいぶん無口だ。とりあえずクッキーに挟んだマシュマロは旨いと合意に至った。

3

財布/チョコ/夜
 カカオを育てる畑が欲しかったが、そもそも日本ではまず育たないらしいうえ、街路樹の根元へ勝手に植物を植えてはいけないそうだ。仕方なく、カカオを鉢に植え替え、夜中に近所のビニールハウスにそっと置いておいた。よく考えたら砂糖も要るので、明日また園芸センターに行ってサトウダイコンを探す。

色白/チョコ/いたちごっこ
 サトウダイコンは寒い場所でしか育たないらしいのでサトウキビを買って帰ると、ビニールハウスからカカオが出されていた。仕方なく、カカオとサトウキビの鉢を夜中に近所の植物園の温室にそっと置いておいた。よく考えたらスパイスも要るので、明日また園芸センターに行ってバニラとトウガラシを探す。

制服/チョコ/ブラック
 バニラとトウガラシを買って帰ると、植物園の温室は閉め切られ真っ暗だった。経営破綻していて昨日が最終日だったとか。仕方なく、夜中にガラスを割って鍵を開け、カカオとサトウキビを運び出した。他の植物たちの濃い匂い。滅んだ植物園に彼らが残されたのか、彼ら以外滅んだ世界に僕が残されたのか?

4

炭酸/蝶々/大嫌い
 裏カフェが摘発された。常連だったどこかの学生が親にバレたのが原因らしい。店主は逃げ切ったようで空の屋台が転がっている。コンビニのラムネは安い味で、プラ瓶越しに無数の泡が舞うタコ滑り台はやっぱり落書きだらけだ。俺はその上から青スプレーを吹いた。ありったけ吹きつけてもまるで足りない。

炭酸/ピアス/雨垂れ石をも
 屋台を引いて行こうとする女子高生を止めると、いや私が貰う約束だからと言う。固そうな外見に合わず自分で開けたらしいピアスが光る。いや祖父さんの残家財で作った屋台だし塗装も俺だしと言うと、いやカラー綿飴売るしと言う。いやそこは琥珀糖ソーダだろと言うと、それ自分考えたんでとドヤられた。

5

ベッド/前髪/蜂蜜
 眼前にホットケーキが座布団よろしく山積みになっている。いやパンケーキか? とにかく相手は裏カフェ主人と名乗った。いや店主? 混乱をよそに店主は力を借りたいと言う。植物園の植物をみな移し、菓子を植物から育てる計画とか。カカオも? 当然。スパイスも? 無論。蜂は? いいよ。チャンス? 何かの罠?

黒猫/ピアス穴/蜂蜜
 承諾の印に引き寄せたパンケーキは全部色違いで、琥珀糖のイメージだという。上の絵柄はどうしてかタコでどうしてかブルーベリーの紫だ。このパンケーキは仲間候補のシンボルだそうで、秘密結社の旗みたいなもんだよと店主は言う。さて君は蜂蜜かな? チョコがいいです、いえカカオドリンクがいいです。

6

ココア/白衣/サヨナラダケガ
 ガラスケースの二段ケーキの表面をマーブルチョコが埋め尽している。カラースプレー付きドーナツを連想したがスケール段違いだ。最近こんな注文が多くてとパティシエは苦笑だ。人気店なのだ。お嬢さんは? 本題を切り出した僕に、また家出と相手は顔を顰める。先日彼女を裏カフェごと補導したのは僕だ。

ココア/鳥/恥ずかしい
 娘さんが裏カフェ店主のビニールハウス周辺で目撃されたという情報を僕はパティシエに伝えたが、行方不明中の屋台の塗装に既視感があることは言えなかった。捜査継続を約して帰る際にケーキを勧められたが、残念ながら公務員の身とて丁寧に辞した。ココアとマシュマロどっちが先かはついに聞き忘れた。

7

身長/ピアス穴/甘党
 菓子店の新ディスプレイは巨大ステンドグラスクッキーで、文字を型抜きしカラフルな飴を入れた部分は文章だ。と言うか裏カフェ店主に向けた公開挑戦状で、菓子対決らしい。と告げると店主は爆笑し、僕にホットチョコを作らせた。と言うかフォームミルクを乗せ、そこへカカオパウダーで返信を書くとか。

インターミッション

餅/噛み癖/癖
 囲炉裏で炙った餅へ丹念に砂糖醤油を塗しながら、老主人は自分の死後この家を引き取れと縁起でもない。毎度なので聞き流しつつ餅に食らいついていると、君は菓子職人だからきっと活かしてくれると言う。彼の余命はさておき、確かにこぢんまりしながら風格のある家だ。お客様が寛いで菓子を楽しめよう。

8

財布/パフェ/夜
 第一戦は両者白塗りのケーキを出した。パティシエがナイフを入れた断面はゴッホの星月夜。中に色付き生地を仕込んだのだ。対する裏カフェ店主のケーキは切ると中の駄菓子が流れ出すギミックケーキで、カラーチョコや飴に混ざって三色あられまで出現、塩気も欲しいよねとの弁。両者楽しく美味で引分け。

耳/パフェ/癖
 問答式の第二戦。店主の出した固まる前のゼリーへパティシエは素早く琥珀糖を仕込み、パティシエのパフェの土台を店主は慣れた手で飾りにかかる。かくてゼリーは甘い熱帯魚の泳ぐ珊瑚礁の海を表したスノードームと化し、パフェにはクリームと果物のタコ滑り台がそびえ立つ。食べるのが勿体無く引分け。

月/パフェ/いたちごっこ
 合作式の第三戦。焼きたてクレープ一枚目は店主、チョコで素早く書くのはリスの絵。その上に乗せた二枚目にパティシエは生クリームでスズメを描く。言うまでもなく絵しりとりで、続く計二十枚ノーミスで出来上がったミルクレープを「間のしりとり全部言えた人は食べていいよ」との店主の言に全員撃沈。

背伸び/パフェ/はじめて
 第四試合は団体戦。店主側は本人、女子高生、スプレー画家、チョコ栽培男だがパティシエ側は、と思う間もなく僕にご指名。なぜか店主が大喜びで、門外漢ほど面白いとか。かくて情け無用のドリンク勝負、僕はグラスにブラックチョコとミルクの二層+チェリーと桜乗せでパトカー表現、店主にだけ大受け。

ナイフ/パフェ/蜂蜜
 女子高生はカラー綿飴in炭酸水。スプレー画家はピーベリー+レモングミの青変茶。栽培マンはカカオ+蜂蜜+唐辛子のインカドリンク。これは我々の要求だと店主。カラーサイダーは屋台、青茶はタコ滑り台公園、古代チョコは植物園。そして店主はタピオカもとい粒餅inきな粉黒蜜ドリンク。古民家だ。

9

ミルクキャンディ/麦茶/シャングリラ
 どれも必要な場所だと店主。植物園で菓子の原料を育て、タコ滑り台の中で製造販売し、屋台は出店にする。古民家はと問うパティシエに、あんたの新しい店だよと店主。やりたいのはそんな店でしょうが。パティシエは沈黙し、ドリンクを出した。熱いお茶と単純なミルク菓子。やりたいのはそれだったのだ。

10

白/爪/憂鬱
 なら儂を唸らせてみるがいい。ラスボスばりに登場の白髭の老翁に店主以外全員唖然、聞けば不動産王かつ古民家の主人で甘味と祭騒ぎに目がない奇人。公園と植物園を再開発した跡地の複合施設にパティシエの店のリノベ古民家が入る旨、嫌なら今勝ち取れと老王。面白いから最終戦にお招きしたよーと店主。

白/落し物/腰痛
 じいちゃん病院はとスプレー男。若い連中にウジウジされちゃ入院もできんわと老王、言うまでもなくスプレー男の祖父。じゃパパ根性決めてママと組みなよと女子高生。言うまでもなく裏カフェ主人はパティシエの妻。スプレー男は僕に、お前チョコで援護射撃な。言うまでもなく僕=警官=チョコ栽培男だ。

白/一重/胸元
 かくて役者が揃い、まずは小手調べ。老王が立てた茶はえも言われぬ芳しさと共に一同の腹中に落ち、続く練り切りは互いを更に高めつつあくまで穏やかだ。ワシの複合施設はこうあるべきだ、全施設が噛み合い、人々の必要と楽しさを満たしながら安らぎを旨とする。練り切りの形どる施設ロゴは単純な美だ。

11

黄/餌付け/八重歯
 私ねえ食べ物で遊んでいいと思うんですと店主。ちゃーんと全部おいしく食べるならね。食べ物「と」遊ぶってのが正しいかな。言いながら店主は巨大クッキーを余った菓子で飾り始める。カラーチョコ、ケーキ生地、綿飴にゼリーに果物。多様なそれらは色のみで分けられ、雑多で美しいモザイクの虹となる。

黄/ピアス穴/憂鬱
 そのためにはまず調和と落ち着き大事、同意ですね、それでこそこっちのハジけ甲斐もあるってモンで。店主の言葉に、違いないなと老王が出してきたのはクチナシの黄も艶やかな大粒栗きんとん。さてどうするね、ニヤリと問われた店主もニヤリ、綺麗に片付いた作業台へ老王含め全員を招く。さあお祭りだ。

黄/カッター/災い転じて
 藍の縞模様の大皿へ店主、栗きんとんの粒を点々。五線譜を形どるそれへ芋餡を添えてLet’s JAM。警官もとい栽培マン、栗楽譜に和して生チョコを点々。その譜面を鉄琴もとい七色のソーダグラス琴で奏でる女子高生、ソフト飴製トロンボーンのパティシエ。合わせてスプレー男がポップコーンを盛大に弾く。

赤/落し物/はじめて
 かくて出現した「動的菓子」に店主と栽培マンが缶入りナッツを振って砕くナッツマラカス、老王が茶筅の音も細やかに加わり、ここに成立した大々的なセッションを経て今夜完成した全ての菓子を茶とともに全員が楽しんだ。最終結果として契約が結び直され、老王はパティシエの新店舗のパトロンとなった。

赤/会いたい/サヨナラダケガ
 改修した公園内の移築古民家は腕利きパティシエの菓子でくつろげると評判で、隣室の畳に寝転んで映画を見ながら食べてもいい。園内植物園の鬱蒼とした熱帯林の中の青いタコ滑り台では、森で採れた実を菓子に加工できる。時々、そこから出向いた屋台が近所の巨大複合施設で菓子セッションを催している。

END ▲

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