#秘密基地への旅
目次
- 俳句アプリに写真が……
- 遊園地の一番人気は街並……
- そのドロイドが入管でとっ捕まった……
- 森の奥の小屋は半地下だ……
- そのカフェは車必須の山道と……
- 古い平屋だが、庭があったので……
- 公園で知らないおばあちゃんに……
- 山道に迷い出た先はぽっかり……
- 夜、音屋へ行く……
- 狼の少年たちが長距離列車で……
- 女子生徒が校内に小さな……
- ふたつの国は国境を高い……
- バイト先のカフェでへまをした……
- 高級ブランド街の公園にロバが……
- 不登校のヒロがいると聞き……
- 地方の神殿で神官が禍ツ神を……
- ベランダは植木鉢とプランターで……
- 教員募集に応えて出向いた先は森の……
- 冷たい石壁に背を押し付けて……
- 川沿いの土手で足を止め……
俳句アプリに写真が……
俳句アプリに写真が投稿された。
どこかの寂れた港で、傾いた漁船の上をカモメが数羽舞っている。それもまた俳句で、TLは大盛り上がりだ。
僕の開発した俳句アプリ「ホソミチ」は当初、過疎っていた。もともと練習用に作っただけで、題材を俳句にしたのも流行っていたからにすぎない。
そんなわけでローンチ後は存在すら忘れていたのだが、どこかでバズりでもしたか、ある時期から海外の投句が急増した。大半はローマンアルファベットだが、ヒンディーやキリル、アラビア、タイ、その他分からない文字も。翻訳にかけてみると意外にも荒らしはほとんどなく、みな風景だとか日常を綴った短詩のていを成していた。むろん季語が無いものも多く、五七五が守られているかなど僕には検証しようもないのだが、それでも僕のアプリに投稿される無数の誰かの日々はどこか慕わしいものだった。
こうして僕からは特段手を入れるでもなく、しばらくは思い出した時にTLを確かめるに留めていた。
が、その間に何らかの乗っ取りがあったらしく、ある日Ver.2.0が配信されていた。見ると文字の他に写真や音声の投稿機能が新設されている。ただのSNSじゃないかと一瞬思ったが、文字・写真・音声はおのおの単独でしか投稿できない仕様で、TLを見ると写真や音声も俳句として扱われていた。
写真は道端の景色、誰かのスナップ、身近な静物。音声は短詩の朗読、あるいは手近な楽器で弾いたワンストローク、鼻歌や口笛なんかも。もはや俳句の定義すら怪しいが、詩情を感じさせるものが詩であるならば、こここそが詩の最前線ではないか。
が、新たに出現したVer.3.0は気配がおかしかった。匂いや味、触覚が投稿可能となったのだ。
さっそく誰かが投稿したらしい匂いをひとまずタップすると、どういう理屈か最初はインド料理屋のレジ横のスパイスに似た香りから、最後は森の中のような匂いが鼻を抜けた。寡聞にしてそんな感想しか出ないが、確かに何かの景色が浮かぶ感じで、ユーザーにも好評だ。かくて匂い・味・感覚も、従来の文章・画像・音声と共に俳句として市民権を得た。
この頃からだ。投稿の一部に、翻訳不能な文字や地球上と思えない風景写真、奇怪な鳴き声(?)が現れ始めたのは。匂いや触覚は試す勇気がない。直近のVer.4.0は第六感が投稿可能だ。
END ▲
遊園地の一番人気は街並……
遊園地の一番人気は街並再現エリアだ。昭和やら江戸でもなく、外国でもない、ただの住宅街が1ブロック再現され、人々はどの家にも自由に入っていける。家の中には家財道具がひと揃い、それも食器はシンクの食器かごに立てられ、学校のお知らせが壁に貼られ、まるで今まさに誰かが住んでいて留守にしているありさまだ。人々はそんな「誰かの家」をそぞろ歩き、「誰かの暮らし」を垣間見、「誰かの気配」をなでさする。僕の気に入りは奥から二番目の家の押入れだ。上の段の布団に寝転ぶとサッシ戸を通して六畳間に日光が落ちる。実家は完全にフローリングだったから、そのむかし行儀が悪いと眉をひそめる母の目を盗んではベッドの中で駄菓子を食ったその匂いが蘇るのは不思議だ。
とは言え今は勤務中なのだ。僕の仕事こそは、この家々に住み込んで、人々がいじった家財道具をそれとなく「自然な」「誰かの家」の状態に戻すこと。ただの住宅街と言ったが、この街並をそう思うのは僕の世代までだろう。少子化と独居が進んだ現代、家族の暮らしなどもはやレアケースだ。僕が今そっと戻した座卓の上の湯呑みの柄は、実家のマグカップよりも鮮明で近しい。
END ▲
そのドロイドが入管でとっ捕まった……
そのドロイドが入管でとっ捕まった理由は、ボディとAIの渡航歴のズレが露呈したためだ。
巧妙に偽装されていたものの、頭脳たるAIは製造後半年で今回が初渡航、他方ボディは製造後二年で廻った国や地域が名だたる紛争国や未承認地域を網羅しており、しかもいずれも先進国との往復である。調べた結果、ひとつのボディを複数のAIが頭脳チップ入替えの形で共有していた。
正確には、先進国から高飛びしたいドロイドが頭脳だけボディに乗せて紛争国・未承認地域へ渡り、現地のボディへ頭脳を乗り換える。そして紛争国・未承認地域から密出国したい別のドロイドが同様に頭脳だけボディに乗せて先進国へ渡り、現地のボディへ乗り換える。こうやってボディを船のようにリレーしてゆくのだった。
この手口を誰がいつ始めたのか、他に同様のボディがあるのか、黒幕がいるのかは、後ろ暗い業界の常として永久に不明だろう。ただ入管職員が見たのは、人間の難民(という単語をこの国のオフィシャルはまず使わない)と同様に思いつめた表情をつくるドロイドと、その全身の隙間という隙間に詰め込まれた、恐らくは同行の脱出希望者と思しき膨大な頭脳チップたちだ。
END ▲
森の奥の小屋は半地下だ……
森の奥の小屋は半地下だ。地面から緩やかにつながる土の屋根は草むして、外からは丘としか思われない。よほど寄らねば叢に隠された扉には気づかぬし、まして中の微かな話し声は耳に留まらない。
それが若い男女で、女が持参した材料と帳面を押しつけて調理をせがんでいるとあれば、睦まじい恋人かきょうだいと思うところだが、客人の娘の顔面には引き裂いたような古傷が走り、薄汚れた着物のベルトに差した蛇体と呼ばれる鉄鞭には血の跡が残る。小屋の主たる若者も小柄でにこやかと思いきや、簡素な衣服の下の身体は細く締まりきっている。
若者は単独行の山駆け忍びだ。峰を越え渓を渡り道なき道を辿り、人や物や報せを運ぶ。主人は持たぬがその時々の雇主の契約と期待を裏切ったことはなく、その時々の敵方の追跡と妨害は実ったためしがない。今日も深い森を二十里抜けて北の国の密書を届けてきたところだ。
その大仕事に洟も引っかけず料理をせがむ娘は帝国雇われの戦忍びだ。まつろわぬ街街に入り込んでは警備の弱点を暴き、すぐさま軍を引き込む手口だ。ために滅んだ街は十指に余るどころでなく、犠牲者はもとより数える気もない。
娘の持ってくる材料と帳面は、直前に滅ぼした街で食べた郷土料理のものだ。こうして味と材料を覚え、料理の得意な若者に作らせる。
もうこの世で彼女の舌と帳面にしか残っていない料理たちだが、それすら彼女の記憶と彼の推測による不完全なモドキであり、さらには記録されぬまま消えていった料理のほうが圧倒的に多い。そのことは二人の一抹の悲しみだ。なにせ二人して、食べるのが唯一の楽しみなのだ。
とは言え二人の共通点はそれくらいで、特段の仲良しでも味方でもない。いちおう同郷でもあるが、その故郷も思い出にならぬほど遠い昔だ。
故郷の村は二人が幼い頃の戦で消えた。どこかの軍が村人をみな殺しにして去り、誰もいなくなるのを、どうしてか藪に逃げおおせた二人は黙って見ていた。
村でも別に知り合いでない二人だったから、その後もばらばらに育った。生き残りの村人に捨てられた女の子は戦忍びに拾われ、売られて逃げた男の子は山駈け忍びの集落に迷い込み、今に至る。
女の子が与えられた蛇体という鉄鞭は扱いが難しく、慣れぬうちは自分の顔を裂きもしたが、最初の街を滅ぼす頃には手に馴染み、非常時に大層役立っている。他方男の子は山々や敵陣に放り込まれ、遭難や脱出を繰り返した。その過程で野草やら昆虫やら木の実木の芽茸、死んだ動物までさばいて食べたが、今日まで食中りくらいで支障はない。
ともあれ帳面を膨らますばかりで料理の腕を振るう機会のない娘、包丁遣いは鮮やかだが食材に恵まれぬ若者はとある現場で再会し、以来こうして時折会っている。
前述の通り、意気投合でなく利害一致の二人だから、それ以上助け合うことはない。今回の料理は若者が直前に旅立った北の国の街のものだし、運んだ密書の中身は帝国軍に対する大規模反乱の檄文だ。が、香り高いシチューをすする二人は気にも留めないし、戦そのものが二人には無意味だ。
畢竟、相手の身体にもお互い興味はない。娘は無粋な男共を蛇体でぶち砕いてきたし、若者は自分を襲おうとした輩を今のところ全員消している。火の粉は自力で払う心得だ。万一、相手が殺されでもすれば、殺した奴をどんな手を使ってでも殺すだろうが、その晩身を寄せ合って眠るのも単に小屋が狭いからだ。故郷の味は夢にも出ない。
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そのカフェは車必須の山道と……
そのカフェは車必須の山道という立地のため繁盛している。
カウンター3席だけの店内は晴れた休日など満席だが、大方の客は持ち帰りのコーヒーと自家製焼菓子を片手にすぐ外の林をぶらつく習いだった。
若いマスターはスポーツマンを思わせる外見ながら穏やかで親しみやすい。コーヒーも菓子も美味く、レジ横にはおりおり野花など飾っている。
通るたび店に寄るのが私の習慣だ。お巡りさんご苦労様です。笑顔のマスターからコーヒー二杯受け取り、私は車に乗り込んだ。運転席の部下に囁く。
「あのマスター、絶対に何かある」
定休日、天気は絶好の雨。店の奥の住居側からそろりと出たのはマスター。服はカフェエプロンでなく迷彩柄の雨具。
その中は行動食と「荷物」入りのバックパック、ランニングウェアと山用シューズ。
周囲の無人を確かめ、彼は林へ踏み出した。
客を装った仲間から「荷物」を受け取り山向こうへ密かに渡す闇トレイルランナー。それが本職だ。店に飾る野花が請負可能の印。山中の道なき道こそ彼の庭だ。
梢から降る水音。踏みしめた緑の香が肺を満たす。彼は大きく息を吐き、けぶる木々の間を見据えた。
END ▲
古い平屋だが、庭があったので……
古い平屋だが、庭があったので借りている。
猫の額のようでもちゃんと植物は育つと見え、にわか知識で植えたいくばくかのハーブも形になってきたので、どうしようもなく腹が立つ時は、ガラス戸を開けてぼんやり庭を眺めることにしている。
座り込んだ目の高さは、ハーブの森と大差ない。その中に時折、ぼろぼろの人がたたずんでいるのが見える。
私はそれをわるくちの神様と呼んでいる。ひとに嫉妬したり、仕事が上手くいかなかったり、どうしようもなく荒れた気分の時にだけ現れるからだ。
わるくちの神様は何も言わず、眉ひとつ動かないので、何を考えているのか私は知らない。髪も服もぼろぼろのまま、じっと立っているだけだ。新しい服を置いてみたこともあるが、いつも手付かずのまま残されていた。
だから最近の私は毎度、その足元のローズマリーを勝手に摘み、熱湯を注いだだけのお茶にしている。わるくちの神様もそれは飲むので、二人で黙ったまま、そよぐハーブの森を眺めている。
END ▲
公園で知らないおばあちゃんに……
公園で知らないおばあちゃんに声をかけられた。この木に上るのでハシゴを押さえて欲しいという。
手押し車から出した折り畳み式のハシゴをおばあちゃんは危なっかしい足取りで上る。僕は続いて、言われた通りに板切れを、座布団を、寝袋を枝の上へ手渡す。意外な重装備に舌を巻く思いだ。
丹念に角を落とした板切れをおばあちゃんは枝へ渡し、座布団を敷いて腰を下ろす。巻かれた寝袋は肘掛けそっくりだ。
最後に、小さなピアノのような楽器を手渡すと、おばあちゃんはありがとうと微笑んで鍵盤を指で弾いた。澄んだ音がオルゴールに似ている。
楽器はカリンバというそうだ。大昔、亭主と別れた日に買ったの。おばあちゃんは言った。
――世間知らずのくせに生意気だって言うのよ。出てけって言われたから、出てきたわ。
さすがにどうしようかと思ったけどね、閉まりかけの市場でこれを見つけて鳴らしたらどうでも良くなっちゃって、とおばあちゃんは笑う。
頭上でカリンバが鳴る。木の声にも聞こえる。夕暮れ、巣に帰った鳥たちが鳴く声もそんなふうだった。
――その日以来、世界中が私の家なの。外は大好きよ、風がきれいで。
END ▲
山道に迷い出た先はぽっかり……
山道に迷い出た先はぽっかり開けた草地だった。
奥の木陰に緋毛氈、古めかしい着物の女たちが野遊びの風情だ。
手招かれるまま私が毛氈へ腰を下ろすや、女の一人が座の中心に独楽を回し、三味線を弾き出す。〽べろべろの神様は、正直な神様よ。
御座敷遊びの歌だ。独楽の倒れた方にいる者が盃の酒を飲み干すのだ、と思う間にぱたりと私を指した独楽を見ると、蛍袋の花だ。
手を叩いて笑う女たちに昼顔を一輪持たされた。なみなみ注がれた酒をぐっと呷ると、驚くような冷気が喉を落ち、口一杯に熱が広がる。くらっと来たところにまた歌が始まり、ぼけた視界の独楽が私を指す。
芙蓉が今度の盃だ。隙間だらけの花は指で抑えて飲み干さねば手を離せない。昼顔より大きいそれを必死で空けると、強烈な蜜の味。
三度目の盃は巨大な山百合、底が尖った花は置くに置けず、腹を括って飲み干すと、芳香で気が遠くなった。
――山の精でしょうな。
独り寝ていた私を見つけた山守の老人は、私の胴乱に横目をくれた。
――次は無いと思った方がいい。
老人の言葉に青ざめる私の腰、胴乱に隠したはずの希少植物が残らず消えていた。
END ▲
夜、音屋へ行く……
夜、音屋へ行く。入口で年齢性別不詳の店主からヘッドフォンとコーヒーカップを受け取る。奥でコーヒーメーカーが唸る店は小さいが、他に何も置かれていないので狭く感じない。
両側の壁一面に空けられたイヤホンジャックを目でなぞる。何千個あるか知れないジャックからは、それぞれ違う音がする。ジャズの鳴る雨の喫茶店。熱帯雨林に降る雨。砂漠のトカゲの足音。南米の路上のサルサ。恒星のいろどりを再現したアサバスカインディアンの歌。
律儀に端から一つずつ試していた頃もあったが、どのみちコーヒーを取る拍子に見失うので早晩やめにした。
床すれすれのジャックのひとつへ適当に端子を挿す。こおう、こおうう、と深く籠るような音。
――何すか、この音。
――ん、ダイオウイカ。太平洋のね、水深六百メートルくらいかな? 水吹いて泳いでる音。
音を聴きもせず、店主は事もなげに答える。たぶんこの店のジャックを全部覚えているのだ。
床暖房のきいたフローリングに座り込み、熱いコーヒーをすすりながら目を閉じる。イカの呼吸音の中にヒレ音が聴こえないか耳を澄ます。遠くでしゅっと鳴るのは他の魚か仲間のイカか。
店内を回り、三つ、四つ、ジャックを替える。真冬の灯台に押し寄せる波頭、未知の鉱石に滴る水滴、フラメンコの鋭い靴音。なるたけあちこち歩いて音を探しな、とは店主の弁だ。人間、ほっといたら手の届く範囲でしか聴かなくなるんだから。
それに倣い、脚立を借りて天井近くのジャックを選んだ。犬のような遠吠えがいくつも聴こえる。
――北極の狼たちだよ。狼犬が二匹いるのが分かるかい。
そういう店主が自分のヘッドフォンを出し、端子をこちらに示した。私はヘッドフォンを外し、店主の座る車椅子を受付から動かす。促されるまま右側の壁に寄せ、店主が指示した天井近くのジャックに端子を挿してやる。
――何の音すか。
――渋谷のスクランブル交差点。今年は渡ってみたいもんだね。
店の代金は音で支払うこともできるから、帰り際に店主へ声をかけた。
――うちの地元の唐揚げ屋、いい音するんすよ。
――ああ、あれは腹が減るね。こないだ空いたジャックに入れとこう。
――どこに入るんすか。
――自分で探しな。
――そこにあった音、どうなったんすか。
――それも自分で探しな。
探せた試しはない。
END ▲
狼の少年たちが長距離列車で……
狼の少年たちが長距離列車で旅している。十人ばかりが固まってわいわいやっている姿は人間の子と違わないが、時々仲間うちで鼻をくっ付け合っているのでそれと知れる。
頑なに帽子もコートも取ろうとしないのは耳やら尻尾を隠しているせいで、狼は狐よりよほど化けるのが下手なのだ。近くにさりげなく座る中年男二人は恐らく用心棒の狐たちで、こちらはさすが人間としか見えない。
数々の保護策も空しく狼は減る一方で、最後の手として極北にあるという狼の国へ全ての狼が集まることとなった。少年たちも恐らく、自国からそこへ向かう途上だろう。
汽車は北上を続け、ここ数日は陽を見ない。地を覆う雪は闇の中ですら白く、その上を風ばかりがうねる。冷たい窓に鼻を付け、一番幼い狼が外を見ていたが、飽きたらしくデッキへとことこ歩いてゆく。兄らしき少年は席で眠っており、他の者はお喋りに興じて気づかない。
私がデッキへ出ると、案の定ちび狼は一人きりで遊んでいた。危ないよ。声をかけると、やっと警戒する気になったか表情が強ばる。周囲に誰もいないのを確かめ、私は帽子を取る。
――なに、心配ないよ。おじさんも狼なのさ。
私の耳を見てすっかり安心したのか、ちび狼は真似して帽子を取った。紛れもない狼の両耳がぴんと突っ立っている。
――おじちゃんも狼の国に行くの?
――そうだよ、坊やたちと一緒さ。だから感心しないね、こんなところで一人になるなんて。狼の国に着く前に悪い奴に連れて行かれちゃうよ。
狼が数を減らしたのには理由がある。ふかふかの毛皮、闇を見通す目、美しい牙。そして今や、数が少ないというそのこと自体に大きな価値があった。
用心棒がついていても、国に着くまで安心はできない。この汽車の中にだって狼を狙う者が紛れ込み、警備の目をくぐらないとも限らない。
この私のように。
――ぼく、怖くないよ。ちょっとオーロラの匂い、嗅ぎに来ただけだもん。
――そうかい。じゃ、窓をごらん。そろそろ見える頃合いだ。
私はさりげなくちび狼を抱き上げた。夜空にはオーロラが踊り始め、あちこちの席から歓声が上がる。それに紛れ、隣の車両に続くドアへ手をかけた。そこには仲間が待ち受けており、狼を捕まえ次第、次の駅で降りる手筈になっている。
私は人間に化けた狼ではない。
人間に化けた狼に化けた狐だ。
途端、背後でばたんとドアの音。ちび狼を抱く腕が何かに喰らいつかれた。悲鳴を上げた私の腕からちび狼がさっと引ったくられる。
よろめきながら顔を上げると、少年のひとりが仁王立ちになっている。さっき眠っていた兄だ。両腕で弟を抱え込む姿こそ人間だが、鼻筋にしわを寄せて歯を剥き出す顔はいっぱし唸る狼だ。
その形相に私の両耳が思わず後ろへ寝たが、なんのなんの、化け比べならこちらに分がある。
元の車両へ駆け戻ろうとする兄弟の背中へ、余裕たっぷりに声をかけてやった。
――ま、確かにこの汽車は狼の国行きだろうがね。君ら二人は入れてもらえるものかね?
少年の足がぎくりと止まった。
――匂いで分かったが、いやはや狼に化けることにかけちゃ君らは私以上の上手だ。狼犬が狼のふりして、移住枠を取るなんて。
狼犬もまた、狼と同じ理由で狙われる。ただし、狼の国へ呼ばれているのはあくまで狼。
狼の楽園たるあの国も、狼犬まで受け入れられるほど広くはないのだ。
――元の国で胸を張って生きていくほうがよっぽど楽じゃないかね。なに、多少の不自由はあるだろうが、私に任せれば悪いようにはしない。
狼犬の兄は、力無く床に目を落としている。
――君らがあの国に入ることで、向こうにいる君の友達の誰かが落っこちるかもしれない。
私の一押しでついに立ちすくんだ狼犬のそばで、ドアがぱっと開く。
――お前ら、狼犬ってほんとか。
他の少年たちだ。やはり二人の素性を知らなかったと見える彼らへ、私は大げさに肩をすくめた。
――どうしよう。お前ら、入管から先へは行けないぜ。
どうもこうも、その通りだ。今後の稼ぎのためにも騒ぎにしたくなかったが、狼犬二人手に入れば上出来だ。万策尽きた少年たちを後に、私は二人を引っ立てて仲間の車両へ移ろうとした。
が、そこからどたんばたん物音がする。はっとガラス越しに中を覗くと、なんと仲間が一網打尽になっている。それを囲む乗客たちは……
狼、狼、狼。いや違う、残らず狼犬だ。
――狼狩りが出ると聞いてね、張ってたんだよ。
ぎくりと振り返ると、狐の用心棒二人が立っている。
――坊やたち、手癖の悪い同胞で済まないね。さあて御同輩、この汽車は特別仕立てでな。俺たち二人とあんたらが狐、それからこの子ら狼以外は全員、狼犬が乗り組んでるのさ。
狼の、狼犬の、何対もの目が突き刺さる。
――確かに狼犬はあの国へは行けない。だからこの汽車に住んで、狼たちを送りながら自分たちの身も守っているのさ。
狐の用心棒は、狼犬の兄の肩へ手を置いた。
――君らのことは俺たちも気の毒に思うよ。ここにおいで。座席はあるし、こういう奴らをとっちめる人手も要る。あの国へはやれないが、化け方ならいくらでも教えてやろう。
少年たちのリーダーと思しい狼が、兄弟へ顔を寄せる。
――ごめんな。俺たち先に行くけど、きっとあの国の法律を変えて、お前らも住めるようにする。だから、もう少しだけ頑張ってくれ。
狼と狼犬が鼻をくっ付ける。その仕草は狼同士と変わりなく、私の目からは狐の仕草ともよく似ていた。
私と仲間は、次の駅で降ろされた。頬を切る風の中、警備隊へ引き渡されながら、私は駅を出る汽車を目で追った。
夜目の効く我々に北限の常夜は白い。その最果ての国へ、一続きの灯は流れてゆく。いくつもの遠吠えを聞いた。狼か、狼犬か。その違いに意味は無かろう。
全天を横切ってオーロラ。匂いがしないかと立てた鼻に冷気が刺さり、大きなくしゃみが出た。
END ▲
女子生徒が校内に小さな……
女子生徒が校内に小さなキャンディ缶を持ち込んだので注意したところ、中身は大小様々な石ころだった。部活動の一環だという。彼女は帰宅部のはずだが。
活動を見せるというのでついて行くと、図書室のカウンターの隅に彼女は例の小石を並べ始めた。ためつすがめつの末に完成した石の並びを言われるままカウンターすれすれの高さから覗くと、奥の窓の光をうけたそれはまるで夕暮れの街だ。その「風景」を彼女はスマホの写真に収め、SNSに上げる。アカウント名「国々」。この「部員」たちの共同運営といい、似たような写真が何枚も何枚も投稿されていた。貝殻の群島。木の葉と実の森。布切れとコルクの部屋。
見入る私に、先生こういうの好きでしょ、顧問になってよと彼女が言う。ばれていたか、ポケットの中のシャンパンチェアが。
頷くと中庭へ案内された。花壇の隅に全部員が一つずつ「物」を置いた「街」があり、そこへ何かを置くのが入部の証という。覗いて息を呑んだ。どんぐり、鉱石、陶器片に貝殻、数知れぬがらくたが数知れぬ輝きで並び、一つの巨大な街を成す。
その一隅に、私は恭しさをもって自作のシャンパンチェアを据える。
END ▲
ふたつの国は国境を高い……
ふたつの国は国境を高い石壁で隔てていた。いつからか、なぜか、誰も知らないが、どちらの国もお互いが嫌いだった。壁は目の届く限り延々と延び、いっさいの行き来を遮っていた。
その壁には小さなドアが造られている。最初に気づいた誰かの名は分からない。ごくごく親しい人の間でそっと伝わってきたからだ。ともかくドアは大人が腰を屈めてやっと通れる小ささで、落書きの中に巧みに隠されていた。
ドアの向こうは相手の国でなく、細長い庭だった。実は壁は二重になっており、そのあいだに一つの庭が国境の長さだけずっと続いていたのだ。庭を訪れた人は咲き誇るバラのアーチをくぐり、木漏れ日の下に憩い、まれに誰かに出会えばそっと会釈した。そしてごくごく親しい人にだけ秘密を明かし、誰にも言わぬようにと口止めした。
もしや相手の国にも同じドアがあり、今すれ違った人は敵かも。いや、ふたつの国の者たち全員がこの庭を知っているのかも。と、実は誰もが思っているが、誰も口には出さない。
片方の国の大統領ともう片方の国の将軍は、くたびれたシャツを着て庭のベンチで水筒のお茶を交換する仲だ。お互い、相手の名は知らない。
END ▲
バイト先のカフェでへまをした……
バイト先のカフェでへまをした。置いたコーヒーがお客さんの服に跳ねたのだ。よりによって真っ白なコットンシャツで、点々と飛んだ茶色は慌てて持ってきたシミ取り剤より手強かった。けれど平謝りの僕に、お客のおばあちゃんはあらいいのよ汚れてもいい服なんだからと笑い、クリーニング代をどうしても受け取らない。おばあちゃんのコーヒー代を無料にした店長に、あんなお客様ばっかりじゃないからねと釘を刺された、その数日後。同じ席に白いシャツが、続いてあのおばあちゃんが目に入った。同じようにオーダーされたコーヒーをさすがに震える手で運んでいった僕は、おばあちゃんのシャツにふと目を止めた。この前のと違って点々と小さな花の刺繍が……
「気がついた? これ」
おばあちゃんが笑う。コーヒー染みを隠して刺繍の花が咲いている。へええと声を出した僕に、おばあちゃんはいたずらっぽく声を潜めてシャツのあちこちを指差した。
「ミートソースに、お醤油に、泥」
確かに、その箇所の刺繍はこの間も見た気がする。
「だからね、ほんとは汚れるのちょっと楽しみなの」
おばあちゃんの囁きは世界の秘密を打ち明けるような声だ。
END ▲
高級ブランド街の公園にロバが……
高級ブランド街の公園にロバが繋がれ草を食んでいた。かいがいしく世話する公園の管理人は、今年も「あの人」が来たからねと目を細める。
近くの二つ星レストランにその老人はいた。顔は黒く日焼けし、ドレスコードに精一杯合わせたらしい上着も色褪せているが、ウェイターの給仕は恭しい。彼が運ぶ黄金色のチキンパイを見守る老人の目はまるで少年だ。
テーブルの中央に鎮座したパイを老人は感嘆の眼差しで眺め、息を詰めてさくりとナイフを入れる。湯気と共に広がる香気を大きく吸い込んだ後、宝石を扱う手つきで一片を口へ運ぶ。おおサンタマリア。陶然と呟く声。
あの方は毎年十月いっぱいこの街に滞在されます。ウェイターの話だ。高級レストラン、大衆食堂、カフェ、屋台。毎日違う店を巡り、とりどりの食事を楽しむとか。
チキンパイを綺麗に平らげ、老人は奥から出てきたシェフを惜しみなく讃える。その言葉は評論家のそれでなく、祖父が孫へ向けるように朴訥なそれだ。
あの方は褒め言葉を百万通りご存じでしょうね。この街の料理人にとってあの方のご来店は喜びなのです。ウェイターの視線の先のシェフは晴れがましい笑顔だ。
十月の終わり、老人はロバに乗って故郷へ発つ。三日がかりで戻った先は国境付近の小さな街で、流行とはほど遠いが様々な人の行き来する中継点だ。
老人は市場へ寄り、肌身離さぬ帳面と首っ引きで、次々に食材を買ってはロバに積む。そのロバを中心点に、彼の帰還は速やかに市場、そして街中に伝わる。
帰宅した老人はロバを労わると、自分はお茶もそこそこに、一月ぶりで店の厨房に立つ。例の帳面を傍らに広げ、手際よく芋の皮を剥き魚を捌いてゆく。やがてフライパンの音と匂いにつられ、人々が彼の店先に集まる。
彼こそはこの街の「三ツ星シェフ」、毎年十月に首都へ赴いては美味しい料理を書きとめ、街へもたらすのだ。当然完璧な再現は無理だし、在り合せの食材に街好みのアレンジまで加わり、元の料理とは大きく異なるが、新作料理は街の人々の舌を喜ばせ、国境を越えてさらに変化しながら伝わってゆく。
店を訪れる客の中に「提供元」たる首都の料理人達が時おり混ざり、自分達の料理の進化を楽しんでいるのは勿論であり、その味が首都へ逆輸入されるのも勿論だ。厨房の老店主はそれを知ってか知らずか、今日も楽しげに包丁を振るう。
END ▲
不登校のヒロがいると聞き……
不登校のヒロがいると聞き、学校帰りに隣町へ寄った。
教わった路地裏は僕くらいの子供で溢れていた。並ぶ店も色紙の花や手書きポスターで彩られ、カウンターの中にいるのも子供たちだ。手作りマフィンやクッキー、細かいビーズの指輪、庭草の花束、宝物を交換する蚤の市も。この路地裏は、子供の作る商店街なのだ。
怖々進み、本屋に着いた。並ぶ本は手製だ。画用紙を綴じたもの、ノートに書いたもの、家のプリンタで作ったもの。
「不登校の子たちが書いた本だよ。国じゅうから送ってくれるのを売ってるんだ」
声にはっと顔を上げると、ヒロだ。見たことのない明るい顔。
他の店主もみな不登校の子で、午前中ここのフリースペースで勉強し、午後から店を開くという。
学校はどう。ヒロの問いに僕は口ごもった。彼へのいじめを傍観した一人が僕、彼がいない今の標的も僕。バカな話だ。
「それ、見せて」
それ以上訊かずにヒロが僕の手を覗き込み、僕は握り締めてきた自由帳を差し出す。絵は僕の唯一の特技だ。すごいね、店に置いていい? ヒロが目を輝かせ、僕はうなずく。
ヒロ、ごめん。言いに来た一言が、やっと口から出た。
END ▲
地方の神殿で神官が禍ツ神を……
地方の神殿で神官が禍ツ神をかくまっていると通報が入った。珍しくもない案件なので、我々……秘跡庁騎士団はいつもの通りに現場を強襲した。
田舎の禍ツ神などせいぜい一柱か二柱だろう。たかを括っていたところ、中庭にずらり並んだ祠の住人(?)全てが禍ツ神で、もはや街の様相である。おまけに神官が丁寧に祀っているせいでどいつもこいつも噂以上に力を増し、攻め入ったはずのこちらをぶっ飛ばさんばかりの剣幕に一同完全に逃げ腰となった。
結局、神官をしょっ引くどころかその神官に間に入ってもらい、まずは退却のうえ秘蹟庁に取りなすということでようやく事無きを得た。
世の釣り合いを取るには禍ツ神も必要です、禍ツ神とて丁重に祀ればおとなしいものです。秘跡庁への伝言として老神官はそう言い、譲らない。最近は随分とにぎやかですよ、おたくら秘跡庁が取り締まりに熱心なお陰で。ちくりと付け加えられた一言に、返す言葉のない我々は渋い顔である。
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ベランダは植木鉢とプランターで……
ベランダは植木鉢とプランターでぎっしりで、その一つ一つにわんさとお花が咲くものだから、絵本で見たジャングルそっくりに見える。
毎朝全部のお花にお水をやった後、ベランダの隅の子供用テントで朝ごはんにするのがあたしのお気に入り。テントの入り口をいっぱいに開ければ空も街も見えるし、小さな覗き窓から見る花たちは本物のジャングルだ。
ほんとの森に行ってみたいけれど、ママもパパも決まって「下界は危ないからダメ」と言う。仕方なくあたしは83階のベランダの強化ガラスに顔を押し付けて、遥か下の世界を眺める。
何十年も前、環境汚染のせいで人々は巨大な高層ビルへ逃げ込んで暮らし始めた。でも貧乏な人たちはそこに入れなくて、今でも汚染を我慢して下界……ビルの外の世界に住んでる。ベランダの開かないガラス窓から見える下界はくすんだ色とりどりのごちゃごちゃがどこまでも続いていて、その間からここみたいな高層ビルが生えてる。ビル同士空中通路で繋がっているから、あたしは下界に一度も降りたことがない。
いつかこの花たちに種を外に飛ばしたら、下界のずうっと先のジャングルに連れて行ってくれる気がする。
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教員募集に応えて出向いた先は森の……
教員募集に応えて出向いた先は森の奥のツリーハウス村だった。
正確には廃村だ。開発ブームに伴い、樹上民族が政府命令で遠隔地へ強制移住させられた。村人は最後の抵抗として、独身成人男性の間でくじ引きをし、選んだ独りを村に残した。現行法では住民のいる場所を更地にはできず、政府はあの手この手で彼を追い出そうとしている。
指定された大樹に下がるベルを鳴らすと、手動エレベーターがするする下りて来た。樹上二十メートルのテラスで僕を大歓迎してくれた彼は十四歳、堂々の新成人だという。
この村を全寮制の学校にするんです。テラスから身を乗り出し彼は言う。ツリーハウスは全部回廊で結ばれてます。家一軒一軒を寮に、真ん中の集会場――この大樹の建物だ――を教室にすればいい。学校なら人もお金も集まるし、卒業後にこの村の事を外に話してくれる。何より(と言葉を切って)、
「この森の少数民族全てが勉強するようになれば、もう村を奪われたりしない」
そりゃあいいと頷きながら僕、もちろん政府の秘密工作員、は森を見下ろす。無数の命を抱いて眼下に果てしなくうねる森はなぜだろう、僕の心をざわめかせて止まない。
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冷たい石壁に背を押し付けて……
冷たい石壁に背を押し付けて、おれは今日も本を読んでいる。
横に置いた壊れかけの木箱には、今まで集めた本が大きい順に並べてある。中身は色々だ。知らない言葉ばかりのもあれば、外国の文字のもある。食べ物や動物の写真が沢山あるのは気に入りだ。ばあちゃんが話すみたいな昔話も。
端っこの一冊は特別だ。文字が一つずつと、その字を使った絵が描いてある。それでおれは文字を覚えた。元々はここの五号室の子供の持ち物だった。
おれたちのリーダーが悪い政府を倒して、今は新しい国作りの真っ最中だ。
この牢屋には悪い金持ちや政治家を閉じ込めている。囚人の持ち物はおれたち牢番で分けていい。大人の牢番は服や腕環やお金だけ取って、偉い奴になれよとおれに本をくれる。囚人は時々どこかへ連れていかれて二度と戻らないけれど、すぐに別の奴が来るので、俺の本もちょっとずつ増える。
大人たちが囚人をみんな連れていく昼間、おれは廊下の隅の本箱まで駆けていき、銃声を遠く聴きながら本を開く。ことわざの本には「奪ったパンは苦い」と書いてあるけれどよく分からない。パンも鶏肉も牛乳も、おれは牢番になって初めて食べた。
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川沿いの土手で足を止め……
川沿いの土手で足を止め「秘密基地への旅」というアプリを開く。
本日の歩数、9173歩。万歩計だ。
このアプリには育成ゲーム機能が付いている。仮想の秘密基地を作れるのだ。
歩数をそのままゲーム内通貨として、建物のパーツや家具を買える。壁から棚、小物に至るまで家一軒が丸ごと揃う。
貯めた歩数を幾らか使い、屋根を買った。和風、洋館、民俗調、SF風、あらゆるパーツが並ぶ中、私が選んだ屋根はよくある瓦葺きだ。壁も窓も引戸も今の流行りとは程遠い。が、これでなくてはならない。
スマホをポケットに突っ込み、夕暮れの土手を歩く。残り827歩。家路に丁度いい。
このアプリにはもう一つ特徴がある。その日の歩数が10000にならねば、どれほどパーツを買おうと自分の秘密基地へはアクセスできないのだ。
私の作る秘密基地は、私の生まれた家だ。
何十年も前に空襲で焼けた家だ。
健康のためにと孫が入れてくれたアプリは、思い出でしかなかった故郷をこの手の中に生んだ。
いつの日か10000歩の果てにその家へ、亡くした人々へ、辿り着けはしないだろうか。目を細め、私は夕陽の先を見据える。
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